不完全ねじ部が短い・最小(0.5P)のネジが欲しい時
チェーシング加工では、不完全ねじ部の長さを0.5山以内に安定して加工することが可能です。
ピッチ=0.4mmの、平小ねじ(平ビス)や皿小ねじ(皿ビス)で、ねじ部の長さが 1.0mm(2.5山)の時を説明します。
チェーシング加工で製作すると、不完全ねじ部を 0.5山(ピッチ0.4mmの時 に、0.5山は 0.2mm)以下にできます。 そして、完全ねじ部として 2.0山は確保できます。
ねじを転造加工した時には、不完全ねじ部を 0.5山以下にするのは難しいと思われます。 その結果、完全ねじ部として 2.0山の確保は、難しいです。
薄板を、平小ビスでワッシャーを使わずに留める時
厚さ1.0mmの基板にM2xP0.4のメネジを立て、そこに薄板(t=0.2mm)を平小ビス (平小ねじ)でワッシャーを使わずに(ワッシャーレスで)留めるとします。
- 薄板の厚さ : t=0.2mm の薄さです。
- ワッシャー :使わない(ワッシャーレス)
- 基板の厚さ : t=1.0mm (ねじ山は2.5山しかありません)
- 基板に立てるメネジ : M2xP0.4
- 留めるネジ : M2xP0.4 平小ねじ(平小ビス)
- 平小ビスのネジ部長さ : 1.5mm
- 不完全ねじ部の長さ : 0.2mm(0.5ピッチP・半山)以下 (このように不完全ねじ部の長さが薄板の厚さと同じでも、メネジの方に穴面取りが有りますので、 薄板は確実に絞め付けられます。)
この様に平小ねじ(平小ビス)で、ねじ部の長さが2.5山くらいしか取れない時が有りますが、弊社では受注生産で対応しております。
また、薄板を留める時に組立て工数削減の為、ワッシャーを使わない時(ワッシャーレス)もありますね。
この様な時には奥の奥までネジを切る事で、不完全ねじ部を最小に短く(最短に)したいですね。
一般的には、不完全ねじ部を最小に短く(最短に)したい時、ねじ部の奥にネジ谷径の逃げ溝を設けます。 その逃げ溝の幅を1P(ピッチ)にする事で、雄ネジがメネジの奥まで入り込みます。
ただし、ねじ部の奥に溝が出来ますので、雄ネジの締め付け強度が下がりますし、メネジとの勘合長さが減りますので、ネジバカになる恐れもあります。
この様に、奥に逃げ溝を設けずに不完全ねじ部を、最小に短く(最短に)したい事があります。 ただ、現実問題としては、逃げ溝を設けずに不完全ねじ部を0(ゼロ)には出来ません。
では、不完全ねじ部は、どこまで少なく出来るのでしょうか?
ところで、一般的な平ビス規格であるJISのB1101(すりわり付き小ねじ)やB1111(十字穴付き小ねじ)では、不完全ねじ部を2山以下としています。
また、精密な平ビス規格であるB1116(精密機器用すりわり付き小ねじ)では、不完全ねじ部を1.5山以下としています。 この規格では但し書きで、「ただし、特に必要がある場合には指定することができる。」と書いてありますが、実際どこまで少なく加工できるのでしょうか。
切削ダイスの喰いつき刃は、最低でも1山(1P)は必要ですし、一般的には1.5山~2山(1.5P~2P)の喰いつき刃です。
この喰いつき刃は、不完全ねじ部になります。 また、ダイスでは平ビスの端面一杯まではネジを加工できませんので、ネジを最後まで加工したダイスと平ビス端面との隙間も、不完全ねじ部になります。
昔(1970年頃)弊社がダイスで雄ネジを加工していた頃に、薄板を留める時にワッシャーを使わずに留めたいとの客先からの要望で、 特別に喰いつき刃0.8山(0.8P)のダイスをダイスメーカー(OSG)に注文して、M1.4の平子ビスを作りました。
小径の切削ダイスには基本的に、3箇所の喰いつき刃が有るのですが、0.8Pの喰いつき刃だと、3箇所の内の1箇所の刃がとても小さくなってしまうのです。
平子ビスの材質は真鍮でしたが、そのダイスの小さい喰いつき刃がすぐに欠けてしまい、苦労しました。
3個の喰いつき刃の小さな食いつき刃1個でも欠けると、最初の喰いつきが出来なくなり、ダイスでのネジ切り加工ができなくなります。
安定したダイス加工を行うには、ダイスの喰い付き刃を1.5山(1.5P)は欲しい所です。 そうなると、平ビス端面との隙間と加工時のネジ深さのバラツキも考えて、不完全ねじ部は最低でも、2山は必要となってきます。